2013.10.15
しっかり者のすずの兵隊さん
エンピツらんど文庫の5冊目の絵本は「しっかり者のすずの兵隊さん」まだ絵本としては完成していない。下記は1850年代に描かれた挿絵(ウィキペディア掲載)、かなり古い時代にかかれたものである。
実はあの「醜いあひるの子」「はだかの王様」「マッチ売りの少女」「人魚姫」を書いたアンデルセンの作品だ。しかし、絵本としてあまり売られていないし知らない人も多い。出版されている絵本も実際少ない。だからこれを読み聞かせられることなく育っていく子どもが大半と考え、あえてエンピツらんどの教材として皆で選んだ。「心と頭がすくすく育つ読み聞かせ」の巻末にも他の出版社だかスズの兵隊さんを紹介した(まだエンピツらんど文庫は完成していなかったので)
知らない人のために・・・あらずしはざっとこんな感じ
“ある男の子の誕生日祝いに、古いスズのスプーンから作られた二十五人のスズの兵隊さんが贈られた。その中の最後に作られた兵隊は材料のスズが足りなくなり一本足であった。一本足のスズの兵隊は紙を切り抜いてできた踊り子の人形に思いを寄せる。その踊り子は一方の足で立ち、もう一方の足を高く上げていた。一本足の兵隊は踊り子も自分と同じ片足であり彼女が自分のお嫁さんにぴったりだと考えたのだった。
あくる朝、兵隊は窓から階下に落ちてしまう。町の子どもが兵隊を拾い紙で作った船に乗せて溝へ流した。流された兵隊は滝から落ち、最後には魚に飲み込まれてしまう。魚は人間に捕まえられ、偶然にも男の子の家に買われたが、その魚の汚いハラワタから出てきた兵隊を暖炉の中に放り込んでしまう。兵隊が燃えていくなか、風が吹き、兵隊さんが惹かれていた紙の踊り子は風に乗って暖炉の兵隊のそばに飛ばされ焼け失せてしまった。一本足のスズの兵隊もだんだんと溶けていき、小さな塊になってしまった。
次の日に暖炉の灰をかき出すと、踊り子の金のバックルは黒焦げになり、兵隊はハート型の小さなスズのかたまりになっていた“
絵本作成の会議の時、最後でもめた。「切ないLOVEストーリーなのになんで金のバックル(留め金)は黒焦げで兵隊さんだけがハートの塊になっていたのか?なぜ、ここで溶け合って1つに結ばれなかったのか?」と社内でもめた。私は「金は燃えるとこげるけれど、スズはこげないで溶けて塊になる金属の性質からではないですか?」と冷めた意見を出したが「物語なんだからそんな分析は止めるように!」と注意された。(※写真左は文章を書いている当社社長)
更に私は「いずれにせよ最後は同じ場所で燃え尽きることが出来たんだから、一緒に混ざって塊になっていなくてもいいんじゃあないですか。渡辺淳一の失楽園だって最後は抱き合って毒を飲んで心中し局所の骨と骨まで絡み合っていたと終わっているけど、きっとその後、警察が死体解剖する時、二人を引きはなしたのだから、こだわることないんじゃあないですか?」と意見をしたら「失楽園なんて知らないよ!」とバシッと言われた。(※失楽園のあらすじはこのブログの最後に書いておきます)
LOWEストーリーであるために、踊り子の金のバックルが溶けたものとス兵隊さんのズスの溶けたもの混じり合って一つのハート型の金属になったとつじつまを合わせよう、すっきりさせようとの意見がバンバン出た。しかし、絵本製作の時、大事にしていることはともかく原作に忠実であること、結末を変えてしまうなどいじらないこととしている。だから、変えることをしなかった。同じ場所で燃え尽きても結ばれてない風にしなくてはならなかった。でも皆、なんだかしっくりしない。
そこで、散々、調べ上げた。すると意外な事実が出てきた。訳者没後50年経過し著作権が切れた楠山正雄の「しっかり者のすずの兵隊さん」の最後にこう書いてあったのだ!最後に紙でできた踊り子が風に飛ばされて暖炉に向かって飛ぶ場面・・・全文章は→www.aozora.gr.jp/cards/000019/files/42379_21528.html
『それはまるで空を飛ぶ魔女のようにふらふらと空をとびながら、暖炉の中のちょうど兵隊のいるところへ、まっしぐらにとびこんで来ました。とたんに、ぱあっとほのおが立って、娘はきれいに焼け失せてしまいました。
するうち、すずの兵隊は、だんだんとろけて、小さな塊になりました。そうして、あくる日女中が、灰をかきだしますと、兵隊は小さなすずのハート形になっていました。けれども踊り子のほうは、金ぱくだけがのこって、それは炭のようにまっくろにこげていました』
な、なんと!踊り子が魔女のように飛んだというのだ!紙の踊り子が魔女?この一言に引っかかってしまった。
更に他の文献では
●踊り子の別れを惜しむ歌:「さよなら、さよなら、兵隊さん!あなたは死ななきゃならないのよ。」(山室静訳)
●小鬼の呪いの歌:「さよなら、さよなら、兵隊さん。これでおまえもおしまいだ。」(楠山正雄訳)
●登場人物とは無関係の威勢のいい歌:「ゆけ、ゆけ勇士!死こそはおん身の運命ぞ!」(楠山正雄訳)
と書いてある。
時代背景を調べるとデンマークは昔も今も徴兵制があり、子どものおもちゃは兵隊さん、兵隊ごっこはごく普通の風景。貧しい国であったデンマークは子どものおもちゃは家にあるスプーンで作ったというのだ。
又、作者のアンデルセン同性愛者であった、叶わない恋で悩んでいた。彼の初期の作品では主人公が死ぬ結末を迎えるものが多かった。また極度の心配性であったらしく、外出時は非常時に建物の窓からすぐに逃げ出せるように必ずロープを持ち歩いた。さらに、眠っている間に死んだと勘違いされて、埋葬されてしまった男の噂話を聞いて以来、眠るときは枕元に「死んでいません」という書置きを残していた。容姿の醜さゆえコンプレックスを持っており、若い頃より孤独な人生を送ったため人付き合いが下手だったこと、生涯独身(未婚)であったこと等々
昔話は様々な時代背景、作者の強い思いで書かれている。だから気軽に手を加えてはならない。限られたページ数の絵本の中ではすべてを表現することは難しいがこれらを知って読むとまた面白さが増す。そんな思いで当社は絵本製作をしている。各絵本の巻末の奥付に書いてある。
エンピツらんど文庫は絵も文章も書店で並んでいる子ども向けのアニメチックなものを避けている。だから手に取った時「なんだか子ども向けの絵、文章ではない・・・なんで?」と感じる人も多いかもしれない。で幼児期に本物の絵や文章に触れることにより絶対に心に残ることがあると思う。縁あって通って来てくださっている7000名の子どもたちにはこれらを届けたいという思いで作っている。
ネットでも購入できます。生徒さんには600円ですが非会員さんには850円。でも、きちんとした上製本なのにこの価格はかなり破格です。興味ある方は覗いてみてくださいね!(ずすの兵隊さんも出来上がりましたらアップいたします~!)
(失楽園(渡辺淳一作)→以下はウィキペディアより抜粋
出版社の敏腕編集者である久木祥一郎は、ある日突然、編集の第一線から閑職の調査室配属を命じられた。そんな久木の前に、友人・衣川が勤めるカルチャーセンターで書道の講師をしている松原凛子という美しい人妻が現れる。彼女は“楷書の君”と呼ばれているほど折り目正しく淑やかな女性だが、久木の強引でひたむきな恋の訴えに、やがて彼を受け入れた。そして、週末毎に逢瀬を重ねていくうちに、凛子はいつの間にか性の歓びの底知れない深みに捕われていく。
二人の関係は次第にエスカレートしていき、凛子の養父が死んだ通夜の晩、久木にせがまれた凛子は、夫や母親の眼を逃れて喪服姿のままホテルで密会した。凛子は罪悪感にさいなまれるが、それはかえってふたりの気持ちを燃え上がらせる。やがて、久木は密かに都内にマンションを借り、凛子との愛の巣を作り上げた。しかし、そうした大胆な行動は隠し通せるものではなく、凛子の夫・晴彦は興信所の調査で妻の不貞を知る。晴彦はあえて離婚しないことで凛子を苦しめようとし、一方、久木の妻・文枝は静かに、しかしキッパリと離婚してほしいと要求した。家庭や社会からの孤立が深まっていく中、それでも二人は逢うことを止めようとはせず、世間並みの日常が失われていく分だけ、二人だけの性と愛の充足は純度を増していく。
そんな折、久木の会社に彼の行状を暴く告発文が送られてきた。久木は、それをきっかけに辞職を決意し、文枝との離婚も承諾する。凛子もまた晴彦や実母との縁を切って、久木のもとに走った。「至高の愛の瞬間のまま死ねたら」という凛子の願いに共感するようになった久木は、誰にも告げず、二人でこの世を去ろうと決意する。雪深い温泉宿へ向かった久木と凛子は、生命を絞るように激しく求め合ったまま、互いに毒の入ったワインを口にした。後日発見されたふたりの心中死体は、局所が結合したままの愛の絶頂の瞬間の姿のままであった・・・
カテゴリー:正直なつぶやき
今回のブログ、
大いに賛同しマス!
作者であるアンデルセン氏の想いが込められている作品であり、そのまま伝えていく方が子供達の頭に記憶として残るものだと思うからです。
「失楽園」も「しっかり者のすずの兵隊さん」と同じように叶わぬ恋愛を物語にしてあってどこか似ていますネ!
いつもありがとうございまっす!立石美津子